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契約書作成のポイント

福岡弁護士  
 皆様は契約を締結する際,どのようにして契約書を作りますか?
●取引先から送られてきた契約書にそのままサインする。
●以前同じような契約をしたときの契約書を使い回す。
●インターネット上などに掲載されているひな形を使う。

 このような方法で契約書を作成される方は,結構多くいらっしゃるかと思います。それどころか,そもそも契約書を交わさないという方もいらっしゃるでしょう。もちろん,たまたま上記のような方法で作成した契約書が,今回の契約内容に完全に合致したものであるならば,何の問題もないでしょう。また,たまたま取引先との間で,全く波風も立たずに円満に取引をし続けられたら,これまた問題ないかと思います。

 しかし,このような方法で作成された契約書を見ると,我々法律家としては,依頼者の方が無用なリスクを負ってしまっているのではないか,また,真に適正な利益を得られているのであろうかなどと,心配になってしまいます。

 現に,取引先と紛争になったとして法律相談に来られた方々からお話をお伺いすると,契約書の内容が不十分であったり抽象的であったりなどして,十分に権利主張をすることが難しかったりなどするケースがたびたび見られます。

 たとえば,そもそもトラブルが起こった場合の対処方法・責任の所在・責任の内容などが契約書に書いていない,若しくは,書いてあっても記載が抽象的ではっきりしない,というケースがそのうちの一つです。これは,契約書の使い回しやひな形をそのまま使った場合等によく起こりうるものと思われます。また,何故か当方が圧倒的に不利な契約内容になっている,という場合もあります。これは,取引先から送られてきた契約書にそのままサインしたような場合等によく起こりうるものと思われます。

契約書を作成・締結する際には,どのような点に注意が必要なのでしょうか。

 契約書を作成・締結するときには,
 ①契約書はオーダーメイドするべきである。
 ②契約の締結は交渉である。
 ③契約書は証拠である。
 という3点に気をつける必要があります。
 

まず,『①契約書はオーダーメイドするべきである。』です。

 これは,基本的に契約書は使い回しなどをすべきではないということです。以下,ご相談者の方(当方)が製作した商品を継続的に他者へ売却するという事例で考えてみます。

 第1に,当方のどのような商品を売るのかによって,契約内容は検討されるべきです。たとえば,高額の物を売却するのであれば,物の引き渡し時期と売買代金の支払い時期はなるべく同時か,少なくとも一部の代金は先払いしてもらった方が安心でしょう。逆に,安価な商品を何度も継続して売買する場合には,もちろん売買代金を商品の引き渡しと同時に支払ってもらえれば安心ではありますが,その一方で,取引として煩雑になり手間ばかりかかってしまうことも考えられます。このように,商品の価格や取引の頻度などによって,契約内容は変わってくる可能性が高いのです。

 第2に,取引先が当方と今までどのような関係にあったかによっても契約内容は検討されるべきです。たとえば,当方とA社とは,長年にわたる付き合いで,A社が十分な資産を有していることも把握できており,A社に絶対の信頼が置けるのであれば,お互い取引のしやすいようにある程度緩やかな契約内容でも問題は生じないかも知れません(もちろん,そのようなケースでも,万一に備えて契約内容を十分に検討することは必要です。)。しかし,初めて取引する相手に,上記のA社との契約書を使い回してしまっては,単に当方がリスクを負うだけになってしまいます。

 第3に,当方と取引先との力関係についても検討するべきです。たとえば,当方の商品が他にはない物であり,取引先にとって欠かせない物であるような場合には,かなり当方に有利な契約内容でも取引先は合意せざるを得ないかも知れません。逆に,当方は是が非でも取引をしたいと希望している一方で,取引先にとって当方は数ある選択肢の一つに過ぎないような場合であれば,当方に多少不利な内容であっても契約しなければならないケースもあるでしょう。このように,契約当事者間で力関係に差がある場合には,そのような状況下でいかに適正な利益を獲得し,不利な条項を排除若しくは変更できるかを考えなければなりません。しかし,力関係を無視して契約書を使い回すなどしてしまえば,的外れな契約の締結を相手方に求めることにもなりかねず,結果,当方の利益が守られなかったり,そもそも契約締結自体頓挫してしまうこともあるかも知れません。

 その他,当方内部の事情や当方がこの契約で実現したい事,商品の性質など,様々な要因によって,契約内容というのは変わってくるべきものなのです。

 また,オーダーメイドしていない契約書に多くみられるのが,当方が取引先とトラブルになった場合,どのような解決手段を持っており,どのような権利を主張することができるのか記載されていない契約書です。たとえば,上記の事例で,万一,当方が売却した商品に問題があったとA社が苦情を言ってきた場合,何も取り決めていなかったら当方はどう対処すればいいでしょうか。もちろん,最終的には法律の定めや裁判などによって解決をすることになるのでしょうけれど,当方の利益はそれで守れるのでしょうか。また,契約期間中,もはや当方はA社と取引したくない,他に条件の良い他社と取引したいという方針になったけれども,A社から,契約期間中は取引を続けるようにと要求された場合,当方はどのような主張ができるでしょうか。このように,取引においては様々なトラブルが想定されますが,もしトラブルが起こっても,きちんと契約書に記載をしておけば,当方の利益を守ることができる場合が多いのです。

 ただ,もちろん当方が暴利を得るような契約内容であったり,強行規定といって,当事者がいかに合意をしたとしても破ってはならないとされる法律の規定に反した契約内容になっていたりすると,その契約内容が無効となってしまうこともあります。

 我々弁護士は,様々な紛争の経験を元に,ご相談をいただいた取引においてどのような契約書を作成するべきか一緒に検討してご助言・ご提案をし,契約書を作成することができます。また,取引相手から送られてきた契約書の内容を法律家の観点からチェックしてご説明することで,契約書にどのような問題点が存在するかを事前にご理解いただき,かつ,今後どのように交渉していくべきか共に検討させていただくこともできます。

 皆様の権利を守り,適正な利益を得るためにも,弁護士に契約書の作成・チェックをご依頼されることを検討いただけたらと存じます。

 次に,『②契約の締結は交渉である。』です。

 契約書が取引相手から送られてきた場合,その契約内容に意見するのは失礼ではないかと思っておられる方も多いかと思います。しかし,いったん契約を締結すると,今後その契約書に従って取引をする限り,当方はその契約条項に拘束されることになってしまいます。従って,万一相手に有利で当方に不利な契約条項をそのまま合意してしまえば,長きにわたって当方が不利益を受け続けなければならないことにもなりかねません。

 そのため,契約を締結する前には,必ず契約内容を吟味し,相手方と交渉をして,少しでも当方が納得できる契約内容を獲得しなければなりません。契約書とは,そのような条件闘争の成果物ともいえるのです。

 これに対し,弁護士が入ればせっかくまとまりかけた話を壊されてしまう,と思っておられる方もいらっしゃいます。もちろん,契約内容を吟味した結果,当方が納得しうる内容であるにもかかわらず,あくまで一方的に当方に有利な条件ばかりを相手方に押しつけるような真似をしてしまえば,まとまる話もまとまらなくなってしまいます。我々の仕事はそのようなものではなく,契約内容を専門家の立場で吟味し,依頼者の方の利益が契約書上どの程度守られており,どのようなリスクが存在するかご意見申し上げて,依頼者の方の適正な利益が守られるよう相手方に交渉を持ちかけるというものです。弁護士は,依頼者の方のご意見をもとに,妥当な内容となるよう交渉をするものですから,依頼者の方の意向を無視して一方的に当方に有利な内容を相手に押しつけるというようなイメージは,実際の弁護士の仕事とは異なるものとなります。

最後に,『③契約書は証拠である。』です。

 契約書はなぜ締結するのでしょうか。

 法律上,書面によることを求められている契約も存在しますが,多くの契約は口頭でも成立します。現に,多くの日用品を購入する際にいちいち契約書を交わすことがないように,契約書の存在しない契約は世間には数多く存在しています。会社の事業としての取引においても,取引先と円満に取引が行われている間には,契約書などなくても何の不便も感じないかも知れません。

 しかし,いったん取引先と争いが生じてしまえば,契約書がない若しくは契約書の記載内容が当方にとって不十分であるということは,争いにおいて当方を不利な状況に陥れることとなってしまいます。たとえ,取引前には口頭で「このような場合はこうしよう。」と取り決めていたとしても,裁判においては,当方に有利な事情は原則として当方が証明しなければならないため,取引先が,口約束など存在しなかったと言ってきた場合には,当方がその口約束を証明しなければならなくなってしまいます。

 また,口約束がそもそも争いの種になってしまうこともあります。たとえば,取引前には相手方はあのように言っていたのに,実際には違う対応をされているなどとして,お互いの信頼関係にひびが入ってしまうことも考えられます。

 これらの場合,契約書が存在し,しかも内容がきちんと定められていれば,それを指摘するのみで解決し,若しくは当方に有利に働く場合も多く存在すると思われます。一方で,契約書がなかったり,内容がきちんと定められていなければ,契約書以外の様々な資料や取引慣行その他一切の事情を積み重ねて当方の主張を証明する必要が出てくるなど,解決に多大なる労力と時間を要したり,場合によっては証明できずに負けてしまうこともあるかも知れません。
 
 もちろん,いかなる専門家であっても,将来のトラブルをすべて見通せるものではありませんので,契約書の作成に専門家が関与することで,すべてのトラブルを未然に防ぐことができるというわけではありませんし,これさえあれば完璧という契約書が存在するわけでもないでしょう。

 しかし,我々弁護士は,様々な紛争の経験を元に,依頼者の方のご要望も踏まえ,トラブルの発生を極力未然に防ぎ,適正な利益を得られるように,契約書をチェックしたり作成したりすることを心がけております。

 契約書は,上記のように,契約中も,またトラブルの際も極めて重要な指針・証拠となりますので,是非締結前に専門家にご相談されることをお勧めいたします。